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旭川地方裁判所 昭和47年(ワ)239号 判決 1973年3月28日

原告 朴永洙

右訴訟代理人弁護士 岡部博

被告 早川はな

<ほか五名>

右被告ら六名訴訟代理人弁護士 竹原五郎三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告早川はなは、原告に対し、五〇六、六六六円及びこれに対する昭和四十七年七月七日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告早川清一、同大沢テル子、同田原ハルミ及び同早川史郎は、原告に対し、それぞれ一六八、八八八円及びこれに対する昭和四十七年七月九日から右各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告早川武三は、原告に対し、一六八、八八八円及びこれに対する昭和四十七年七月二十八日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め(た。)≪省略≫

被告ら訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め(た。)≪以下事実省略≫

理由

原告は、被担保債権を代位弁済した結果、民法三七二条、三〇四条の規定に基づき抵当権の目的物が焼失したことによってそれに付されていた火災保険金を債権者に当然に代位して請求できるものであり、右保険金請求権を差し押えるには、被代位者の早川芳平がその娘婿の大沢三郎名義で抵当権の設定登記をしていたため、右大沢の保険金受領に関する委任状、承諾書等を必要とし、それらを得て原告に交付する約束を履行しなかったので保険金の支払を受けることができなくなり、そのため損害を被ったと主張するので、まず抵当権者は、抵当権の目的物が焼失した場合、それに付された火災保険金に対して当然に権利を行使することができるかの点について判断する。右問題について、積極に解する見解は、抵当権者の保護をはかるためであるとか、民法三〇四条一項の「債務者カ受クヘキ金銭其他ノ物」は、法律の規定によると契約に基づくとを問わないとか、保険金は、経済的に目的物に代わるものであるとかを根拠とするものである。しかし、保険金請求権は、目的物が滅失したからといって法律上当然に発生するものではなく、保険加入者と保険者との間の債権契約及びこれに基づく保険料の支払によって生ずるものであることは疑いない。また、保険金が経済的に目的物に代わるものであることは、被保険者の内部的な私経済の問題としてはうなずけるものがあるが、抵当権者に対する関係でも目的物に代わるものであるかは極めて疑わしい。なぜなら、保険金は、保険の目的物の減損の場合にそなえて、収入の一部を積み立てて貯蓄した貯金と同性質のものにほかならないわけで、抵当権者がその貯金に対してまでも当然にその権利を行使しえないことは明らかであるからである。この理は、抵当権者の保護をはかるためをもってしても動かしがたい。しかしだからといって、抵当権の目的物が保険に付されている場合、抵当権者は、保険金について何らの主張もできないとすると実際問題の解決としては妥当ではなく、このような場合、当事者間の特約をもってすれば、抵当権者は保険金請求権に物上代位ができるものと解するのが相当である。本件において、原告は、右特約の存在の主張及び立証をしないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がなく、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 榎本恭博)

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